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東京高等裁判所 平成4年(行コ)17号 判決 1992年10月29日

栃木県足利市小俣町一五三二番地

控訴人

栃木発条株式会社

右代表者代表取締役

岸稔

右訴訟代理人弁護士

斉藤義雄

栃木県足利市大正町八六三番地二二

被控訴人

足利税務署長 塚本博之

右指定代理人

秋山仁美

神谷宏行

金子秀雄

水野浩

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人に対し、昭和六〇年一二月二八日付けで昭和五八年三月一日から昭和五九年二月二九日までの事業年度分の法人税の更正処分のうち所得金額五万九七九〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人

1  被控訴人は、当初、本件土地の時価を算定するにあたり、同土地には借地権が付着しているので、更地価格から借地権価格を控除すべきであるとの控訴人の主張には全く耳を傾けようとせず、あえて右更地価格をもって本件土地の時価と定めたうえ、それと譲受価格との差額分が控訴人の受贈益に当たるとして本件更正処分をしたものの、その後、控訴人が異議申立てをするや、結局右借地権の存在を認めざるを得なくなった。そこで、本来であれば、本件土地の時価の算定方法につき、控除すべき借地権価格を控除しなかったという重大な誤りを犯したのであるから、被控訴人としては、直ちに違法、不当な本件更正処分を取り消すべきところ、それまで控訴人との間で全く問題となっていなかった本件土地の更地価格の算定が低額すぎたとして、従前の価格の一・五倍以上に再評価し直したうえ、借地権価格(四〇パーセント)を控除しても、結局本件更正処分において算定した本件土地の時価(なお、その後審査請求において一部取り消された部分を除く。)を上回るから、右更正処分は正当であると主張している。

2  しかしながら、被控訴人の右主張は、要するに、これまでの控訴人と被控訴人との間において全く問題となっていなかった本件土地の更地価格について、同土地に対する時価の算定方法についての自己の誤りを隠蔽するため、右更地価格を殊更高額に評価し直した結果、結局更正処分は正当であったというに等しく、右は明らかに処分理由の差し替えにあたるうえ、そもそも被控訴人が一旦は自ら正しい更地価格であると公権的に認定し、それに基づいて更正処分を行いながら、その後、時価の算定方法に誤りがあったからといって、その都度一方的かつ自由に変更を容認した場合には、判断の慎重性、恣意性の排除、取消訴訟に対する予測可能性の確保等を目的とした理由付記制度の趣旨に没却するにとどまらず、国と国民との間の信義則に著しく反するという結果を招来することとなるから、いずれにしてもかかる主張の変更は到底許されないというべきである。

二  被控訴人

控訴人の主張すべて否認し、争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の原審及び当審における証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  同一四丁表一〇行目の次に行を改めて次のとおり加入する。

「なお、甲第二一号証、乙第一四号証、第一五号証の一、二、第一六号証の一ないし一一、第一七ないし第一九号証並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人が工場敷地等として、一体的に利用している本件土地及び隣接土地とこれらの土地の西側に存する幅員約七・五メートルの県道名草・坂西線との間には、足利市小俣町字入宿一五三六番二及び同一五三〇番四の県有地並びに無番地の国有地(以下「公有地」という。)が存在していること、右公有地はもと県道の一部であったところ、現在の県道名草・坂西線が新たに敷設されたのに伴って廃道敷地となり、以後控訴人を含む右県道に面する土地所有者(占有者)が県道へ至る通路あるいは敷地の一部として事実上独占的に利用されてきたものであって、現在公共用地としての外観もなく、また、これまで具体的に公共の用に供された事実もなく、栃木県土木部廃川廃道敷地処理事務取扱要領等によれば、右従前の経緯や占使用状況に照らすと、右公有地が控訴人に払下げになる可能性が大きいことが認められ、そうすると、いずれにしても関根鑑定書が右公有地が存在することにより本件土地が公道へ至る通路のない袋地であるとして減価しなかったとしても、何ら鑑定評価の方法として相当性を欠くということはできないというべきである。

2  同一六丁裏八行目の「七八四万〇六一五円」を「七七八万〇八二五円」と訂正する。

3  控訴人は、被控訴人が本件土地の時価を算定するにあたり、本件更正処分時とその後の異議申立て、審査請求や本訴提起に至るまでの間において、更地価格の評価額や借地権の存否及びその価額の控除等を巡って評価の見直しや取扱いを変更した点を捉えて種々非難しているけれども、先に認定判断したとおり、本件における主たる争点は、控訴人が本件事業年度において取得した本件土地の受贈益の計上もれを控訴人の益金として利益に算入することができるか否かであって、右の争点について、本件更正処分時から本件提起後の現在に至るまで何ら変更はなく、いわば課税要件事実の基本的部分は共通であること、課税庁が更正処分をするにあたって認定した所得の有無及び種類、数額等について、その後異議申立てや審査請求及び訴訟の段階において一切変更を許さないとの規定もないこと等を合わせ考えると、一般的に青色申告書による申告についてした更正処分の取消訴訟において更正の理由とは異なるいかなる事実をも主張することができると解すべきかどうかはともかく、被控訴人が本件土地の更地価格の評価を見直したり、借地権の取扱いを変更することを許しても、格別控訴人に重大な不利益を与えるものではないから、右主張の変更は何ら妨げないものというべきである。

その他、本件全証拠によるも、被控訴人が自己の判断の誤りを糊塗し、本件更正処分の正当性を維持するため、殊更本件土地の更地価格を不当に高く評価するなどしたものと認めるに足りる証拠は全くないし、また、本件土地の時価に対する評価が不当に高額でないことは先に認定したとおりであるから、控訴人の主張はいずれも理由がないというべきである。

二  よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 時岡泰 裁判官 大谷正治 裁判官 板垣千里)

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